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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)150号 判決 1982年6月29日

控訴人 井上晴彦

被控訴人 東京総合信用株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(当審における控訴代理人の主張)

1  仮に本件立替金契約が成立したとしても、控訴人には立替金返済の意思が全くなく、控訴人は訴外小田切宏が支払うものとして契約したので、本件立替金契約は要素に錯誤があり、無効である。

2  本件立替金契約はエアコンが控訴人に引渡されることを前提として立替金の返済がなされる契約であるので、立替金返済義務とエアコンの引渡義務とは同時履行の関係にあり、控訴人はエアコンの引渡があるまで、立替金の支払を拒絶する。

3  遅延損害金については、割賦販売法第六条が類推適用されるので、商事法定利率年六分の割合に限られるべきである。

(右に対する被控訴代理人の答弁)

いずれも否認する。

理由

一  請求原因事実は、次のとおり認めることができる。

成立を後述のとおり認めうる甲第一号証及び第六号証、原審証人森田信雄の証言により成立を認めうる甲第二ないし第四号証、原審証人絵野沢稔の証言により成立を認めうる甲第七号証、原審証人森田信雄及び同絵野沢稔の各証言を総合すると、控訴人は昭和五三年一〇月当時訴外小田切宏が経営する電気器具の販売店ヒノデ電器の近くに住んでおり、控訴人の妻と小田切宏の妻訴外小田切まり子が当時懇意であつたこと、控訴人は、小田切宏からエアコンの購入者として控訴人の名前を使うことの了承を求められて、これを承諾し、ヒノデ電器側で代行して被控訴人への立替金契約申込書に控訴人名義の記名捺印をすることを了承したこと、小田切宏(小田切まり子作成部分については同人の委託を受けて)又は小田切まり子は、控訴人を主債務者申込人、小田切まり子を連帯保証人とする被控訴代理人主張のとおりの内容の本件立替金契約の申込書を控訴人名義の記名捺印をするなどして作成し(これが甲第一号証である。なお、甲第六号証は甲第一号証と同時に作成された被控訴人用の控であるが、甲第六号証中には被控訴人作成部分があり、右部分の成立は原審証人森田信雄の証言により認められる。)、小田切宏が一〇月五日これを被控訴人に届けたこと、被控訴人社員訴外森田信雄は同月六日午前八時三五分頃控訴人の当時の勤務先である埼玉県立越ケ谷養護学校に電話して、控訴人に本件立替金契約の申込の意思を確かめたところ、控訴人はこれを認めたこと、被控訴人は右申込を承諾することとしたが、前記申込書には立替金契約は申込書の販売店への提出により成立するとの条項があるので、被控訴人は右申込書をヒノデ電器に提出し、同月三〇日ヒノデ電器に対し立替金七二万四二〇〇円を支払つたこと、控訴人とヒノデ電器との間にはエアコンの購入契約はなく、ヒノデ電器から控訴人に対しエアコンは引渡されていないことが認められ、控訴本人の原審供述のうち以上の認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定に反する証拠はない。従つて、控訴人と被控訴人との間に昭和五三年一〇月被控訴代理人主張のとおりの本件立替金契約が締結されたものである。なお、控訴人とヒノデ電器との間には右のとおりエアコンの購入契約はなく、エアコンの引渡もないが、本件立替金契約とエアコンの購入契約とは別個の契約関係であるから、このことは本件立替金契約が成立したとの認定に影響を与えるものではない。

二  抗弁は、次のとおり認めることができない。

1  控訴代理人は、本件立替金契約は控訴人に立替金返済の意思がないから錯誤により無効であると主張しているが、前記認定のような本件立替金契約申込の意思表示がなされるに当り、仮に控訴人に立替金返済の真意がなかつたとしても、民法第九三条により本件立替金契約の効力には影響がなく、主張自体失当である。なお、右主張が、控訴人は小田切宏が立替金を返済するものと考えて本件立替金契約申込の意思表示をなしたとの趣旨であるとしても、それは単なる動機の錯誤であつて、法律行為の要素の錯誤にはあたらないので、主張自体失当であることに変りはない。

2  控訴代理人は、本件立替金契約はエアコンが控訴人に引渡されることを前提としているからとして同時履行の抗弁を主張しているが、本件立替金契約はエアコンの購入契約が締結されることが前提であつても、両者は別個の契約関係であるし、前記甲第一号証の契約条項(第二条)の文言からも、エアコンの引渡が本件立替金契約の控訴人の債務と同時履行の関係になることはなく、既に認定した本件立替金契約の締結の経緯からはエアコンの引渡と本件立替金契約の控訴人の債務とを関連的に履行させなければならないと解すべき事情もないので、右主張を認めることはできない。

3  控訴代理人は遅延損害金につき割賦販売法第六条の類推適用を主張しているが、被控訴人のように割賦販売代金の立替払をした者が買主に対して求償する場合の遅延損害金請求については、契約を解除した売主の買主に対する損害金請求に関する同条の規定を類推適用するのは相当ではないから、右主張も採ることはできない。

三  よつて、以上と趣旨を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 倉田卓次 加茂紀久男 大島崇志)

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